不正咬合

◇不正咬合の成り立ち

なぜ、歯並びが悪くなるのでしょう?

なぜ、噛み合わせが不調和になってしまうのでしょう?

その答えを知るには、どのように私たちが発達し成長してきたかを知ることから謎が解けていきます。

我々は、このように考えています。



◇進化における顎顔面の変化

人の進化、四つん這いから二本足で立ち上がるようになったイラスト図
人の進化:四つん這いから二本足で立ち上がるように変化
ヒトの頭蓋の形の変化図
頭蓋の形も進化していきました。

ちょっと話は壮大になりますが、それは人の進化の過程にさかのぼります。

四つん這いから、現在のように二本足で立ち上がるように変化したのは、ここ4~500万年の間とされています。

気の遠くなりそうな年月のように思われますが、ヒトの体にとってはあまりに急激な変化であったようです。

体が直立することに伴って顎顔面頭蓋(脳や顔の骨格など)も大きく下方に曲がって顔もゴリラ顔から現在のヒトの顔のように面長へと変化していくことになりました。

ヒトの出生時の顎顔面図の成熟度のイラスト図
出生時、ヒトの顎顔面部はまだ20%しか出来上がっていません。

ヒトの赤ちゃんは、未熟児として生まれてきます。

いくら元気で正常に出産できても、赤ちゃんはすぐには歩けませんし、食事もできません。頭の部分での成熟度をみると脳頭蓋(脳みそ)が60%に対して、顎顔面部(顔や顎の骨格など)は、たったの20%にしか過ぎません。

顔面頭蓋の構成

 視覚器官 臭覚器 咀嚼器官

顎顔面部は垂直的に成長していくイラスト図

<ポイントその1>

未熟な赤ちゃんの頭、顔はどのように成長していくのでしょうか?

 

ここが最大のポイントです。

 

ヒトの顎顔面頭蓋(脳や顔の骨格等々)はおもに垂直的(下の方向)に成長していくのです。

もちろん、前にも横にも成長しますが、正しい垂直的な成長が、全体のバランスにはとても重要な点であると考えています。


<ポイントその2>

奥での噛み合わせが伸びてくると、割り箸を噛まされたように前歯が閉じなくなるのでは?

 

ここが第二のポイントです。

奥が成長していくと同時に下あごは前歯がいつでも同じように噛めるように前方に回転しています。これは、神経筋機構によって非常にうまく適応させてくれるのです。

このバランスが崩れた結果、いろいろの歯並びや噛み合わせの不調和が引き起こされていくのです。

乳歯から永久歯が生え揃うまでの頭蓋骨の写真

これは、赤ちゃんに前歯が生え始めた時期から大人の歯が生え揃うまでの経過を観察してものです。下あごの一番後ろに注目してみましょう。この矢印の長さが成長に伴って長くなっていることがわかります。これが垂直的成長ということです。


◇不正咬合の原因と治療法

なぜ?どうして?

出っ歯・受け口・らんぐい歯になってしまったの?

 

それは、これまでお話ししてきた成長の過程になんらかの不調和が起こることによって引き起こされてくるのです。



これまで出っ歯と受け口はまったく別物というようにみられていました。しかし、その原因は同じポイントにあるのです。

下あごは垂直的に成長するなかで、うまい具合に前に前にと適応を繰り返していますが、その適応に問題が生じた結果が出っ歯や受け口というような顔かたちの違いとして現れているのです。

<出っ歯タイプ>

ここで、ひとつ大事なこと=知っておいてもらいたいことがあります。

それは、見た目の上で上あごの歯が出ているタイプを俗に「出っ歯」と呼んでいますが、実は、上あごが出ているのではなく多くは、逆に下あごが前に出られずに後ろに引っ込んでいる状態が多いのです。その原因は、後ろの噛み合わせ高が成長できずに前方に適応できなかったためです。そのために治療としては、上あごの歯を後ろに引っ込めるのではなく下あごを前に適応させる必要があるのです。こうした考え方をすることにより矯正治療でよく行われている中間歯(多くは第一小臼歯=糸切り歯の後ろの歯)を抜歯せず、身体にとっても生理的に安定した噛み合わせを作ることができます。

 


<受け口タイプ>

この受け口タイプは、前にお話しした出っ歯タイプの逆を想像していただければ理解しやすいと思います。出っ歯タイプは、後ろの噛み合わせ高が成長できないために下あごが前方へ適応できなかったのに対して、受け口タイプは、逆に後ろの噛み合わせ高が急速に増加してしまい、そのため下あごが過剰に前方へと適応したため上あごを飛び越えて反対の噛み合わせを作ってしまったのです。治療としては、後ろの噛み合わせ高を異常に高くさせてしまった原因(主に第三大臼歯=親知らず)があればそれを取り除くことが大切です。そして、上下の噛み合わせを変化させて下あごを後ろへ下げて正常な上下関係を作っていきます。



<らんぐい歯タイプ>

歯の叢生(そうせい=らんぐいのこと)は、出っ歯タイプや受け口タイプにも現れますし上下関係がほぼ正常のタイプのものも現れます。やはり原因としては親知らずの存在やそれぞれの頭の骨格の成り立ち方の違いによっても歯が押し倒されて重なり合う叢生(らんぐい)が起こります。治療を考える上で最も注意しなければならないことは、でこぼこの歯を安易に抜歯してはいけないということです。見かけ上は、いかにも歯の生えるスペースがないように見えても上下の歯列を整えたり、倒れ込んでいる歯をまっすぐ立て直すことによって抜歯することなくきれいな噛み合わせに作り直すことが可能なのです。

何が問題?智歯(親知らず)の存在とは?

智歯(=親知らず)がすべて悪者か?いいえ、ゆったりとした上下のあごにゆとりがある場合は正常に機能することは可能でしょう。しかし、ヒトが二足歩行ができるように進化してきた結果、親知らずが正常に機能することは難しい状態になってきています。

「不正咬合の原因」の項目でもご説明したように「出っ歯」「受け口」「らんぐい歯」を引き起こす原因が「後ろの噛み合わせ高」の異常にあります。こうした状態を「ポステリア・ディスクレパンシー」と呼ばれています。当院では、親知らずの芽(歯胚)があるかどうかをレントゲン診査して、存在が確認できたらできるだけ早い時期に除去(ジャメクトミー)しています。大人になってから大きく根をはってしまってからの抜歯は非常にたいへんです。そればかりか、歯並びに対しても大変な悪い影響を与えてしまうのです。親知らずの早期除去は7歳から9歳頃までが適応時期で大きなメリットがあります。


<あごの歪みやズレ(顎偏位)のあるタイプ>

あごの歪みやズレも多くは「出っ歯」「受け口」の発生原因である噛み合わせ高の異常と同じです。ただ、歪みやズレはあごの左右に噛み合わせ高のズレが起こっているのです。多くの場合は、「出っ歯」「受け口」という状態に合わせて見られます。全体の噛み合わせ高や噛み合わせの面を整えることによりズレを解消することができます。